地元ライター発信!壱岐旅ブログ
奇跡の一枚。船が空に浮く「宙船」を追いかけて
壱岐島の北側に位置する勝本町にある無人島の「辰ノ島」。勝本港から船で約10分で上陸でき、3月〜11月は定期船も運行しているため、誰でも気軽に訪れることができる。
この島で見られる「宙船」とは。それは天気や潮の条件が揃うと、船の真下に影ができ、海水の透明度の高い辰ノ島では、まるで船が空に浮かんでいるように見える現象のこと。
今回は、この「宙船」を写真に收めるため、写真撮影が趣味の筆者がカメラを片手に意気揚々と辰ノ島へと向かった。
掲載日:2022年12月22日
ライター:みつこ
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宙船の主役「エメラルド壱岐」に乗り込もう
「辰の島切符売り場」でチケットを購入し、旅の準備を進める。
今回筆者は上陸のみのコースを選んだが、初めて辰の島に訪れる場合は上陸だけでなく、遊覧も一緒にできるコースもある。※上陸のみ大人1000円(小人500円)、遊覧クルージング大人2000円(小人1000円)、遊覧+上陸大人2500円(小人1250円)
チケットを購入したらその隣の「ヒヨリミテラス」でお昼ごはんを買い込み、辰ノ島に向かうのが筆者のおすすめだ。イカバーガーやいかめしなど、漁港ならではの美味しいランチが味わえる。
お昼ごはんを手に入れたら、エメラルド壱岐に乗り込む。
船には1階席、2階席がありどこに座るか迷いながらも、思わず周囲の人々と笑顔を交わすのは、きっとこの船では見慣れた光景だろう。「どこから来たんですか?」そんな会話が船上のあちらこちらから聞こえてくる。
1階席は窓がある船内のため、寒い日などに居心地のいい空間だ。2階席には窓はなく、爽快に吹きさらす海風を十分に堪能できる。
チャレンジ!船から降りたら宙船写真に挑戦
遊覧を終えると、いよいよ辰の島への上陸だ。
筆者は想像している。島から島へと移動してきたあなたが、期待に胸を膨らませ、エイっと勢いよく地上へと飛び降りる。そして、自分達を島に置いて引き返していく船に、取り残されるような不安を抱きながらも、目一杯に手を振るのである。
ちょっと待った!今回の旅の目的は宙船チャレンジである。船が旋回し、辰ノ島から離れようとするその時が撮影の瞬間だ。そんなわけで写真好きの皆さん、私達にはゆっくり船を見送っている時間はない。下船口から降りたその場所で、去り行く船に向けてシャッターを切ろう。
う~ん…やはり宙船写真は難しい。 残念ながら筆者は思うような写真は撮れなかった。ちなみにこの時は、2022年10月20日午前11時38分(⾧潮)。この日の干潮は12時6分だったので、干潮28分前に撮影したことになる。
快晴、無風、干潮等の条件が揃うことが必須であるらしく、特に真夏の正午近く、太陽が一番高く上がる頃に船の影が真下になり、宙船の現れる確率があがる。もしいつかあなたが宙船チャレンジに成功したのなら、かなりの幸運の持ち主である。
ところで、写真に夢中になったあとはぜひ足元に注目してほしい。おやおや何やら石で埋め込まれた文字が見えてくる。「ようこそ勝本」その横には「しゃいま」の文字。この島に訪れた人をもてなしたいという島民の「いらっしゃいませ」の声が、私には聞こえた。ような気がする。
そこは天然の水族館。生き物探検に出発
宙船チャレンジに成功したあなたも、そうでないあなたも、この島はすべての人を暖かく出迎えてくれることだろう。早々に気持ちを切り替え、島探検のはじまりだ。
探検家になった気持ちで目に映るもの全てを観察して見てほしい。この日は下船口の近くやビーチへと続く石垣のすぐ横で、青色が鮮やかなソラスズメダイを見つけることができた。
そのままビーチまで歩く。引き潮時には砂浜に小さな入り江ができ、注意深く観察する。そこには、海の生態系の縮図が存在しており、様々な生き物に出会うことができる。きっと子どもも大人もこの小さな海に夢中になるはずだ。
海を見ながら絶品イカバーガーを堪能する
お腹が空いたら小屋の日陰に入り、ランチタイム。購入したヒヨリミイカバーガーを頬張ると、イカの風味が口いっぱいに広がる。しっかりと味の染みたいかめしも絶品だ。目の前に広がる青い海が最高のお昼ごはんを演出してくれる。
1 人で来た人は島時間に癒され、仲間と来た人は他愛無い話で盛り上がり、家族や恋人と来たなら出会った頃の思い出話をするかもしれない。そう、ここは無人島、辰ノ島。普段とちょっと違う場所で、違う自分に会ってみるのもいいのではないだろうか。
そうそう、これは言っておかないと。必ずごみはすべて持ち帰ること。このエメラルドの海を保つのは、私たち一人ひとりの意識にかかっている。
出会えるのは美しい絶景、だけじゃない!?
一休みした後はトレッキングで島探検。小高い山を登っていくと徐々に辰の島の全貌が見えてくる。ここから先は足元に注意が必要だ。
手すりもない岸壁の上に立つと、冷たい風が吹きつけ、ヒヤリと足がすくむ。崖の上に立ち、遠い水平線を眺め深呼吸をする。遥か遠く、あの水平線の向こうから吹いてきた風が肌に触れると、自然の雄大さに圧倒される。
山の上から来た道を振り返り一休みしていると、視線の先に何かが写りこんだ。それは、走り去る鹿の姿。思わずアッと声を上げた。筆者は何度か辰ノ島に来ているが、足跡はたくさんあっても、実際の鹿に出会ったのは今回が初めてだった。いつかあなたがこの島に訪れた時にも、その姿を見せてくれるかもしれない。
壱岐島には大⿁がいた!?
しばらく歩いていると転落注意の文字が。
恐る恐る柵の向こうを見てみると、海まで続く岸壁に大きな穴が開いている。それはまるで⿁が残した足跡のようだ。
ここは「⿁の足跡」と呼ばれ、かつて伝説では大⿁デイが鯨をすくい取るために踏ん張った時にできた足跡だそう。そうなると、もう片足はどこにあるのだろう。あなたが壱岐島に来た時には島内のどこかにあるもう片足を探してみてほしい。大きな大きな⿁の全貌を想像することができるはずだ。
そうだ、とにかく辰ノ島に行ってみよう
辰ノ島になぜ惹かれるのか。それはこの地に吹く風の違いなのではないかと思う。
クルーズ中に勢いよく吹く風は、玄海灘の潮の香りを巻き込み、私たちを冒険の始まりへと導いてくれる。
島に降り立ったあと、きめ細かな砂浜やエメラルド色の海面にそよぐ風。それは、異国の地へ着いた私たちを迎えるような穏やかさを感じる。
そして島の奥へと進み、険しい絶壁に降り立つと、そこに吹く風は冷たく、恐怖さえ感じる。
ワクワクと気持ちを駆り立て、時には安堵を感じ、自然に対する畏怖の念までを、風一つで表現する島。辰ノ島での時間は、そんな無数の風や見たこともない景色によって、きっとあなたの旅のハイライトを飾ることになるだろう。そう、たとえ「宙船」の写真が撮れなかったとしても。